尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

黒潰れ、群像劇構造、良翻訳、音楽、すべてのピースがはまった大傑作  ガイ・リッチー:ロックストック&トゥースモーキングバレルズ

映画における画面の黒潰れを愛している。常に画面の20%くらいはつぶれていてほしい。
そんな黒潰れフェチの変態御用達なのが、フィルム・ノワールの映画群、リドスコフィンチャー、そして本作です。
単に明るいのがきらい。黒目の色がうすい、とか日光が苦手、とかそこらへんの特性を持つ人は本作の暗い画面作りに無意識的な好感を持つとおもいますよ。

さらにプラスしてミュージックビデオ出身の監督だと尚最高。音楽の入れ方やチョイスがイカしていて画面が暗ければ、
中身がどうであれ、好きな味付けなんだから素材がなんだろうとどうでもいいのです。(極論)
次作のスナッチでは、音楽がよりカッコよくなったけど、暗さとワントーン演出がなくなってしまってガッカリ。ロンドンを撮るなら色味をなくしてほしいなぁ。

初見ではこんなカッコよくて面白い映画があっていいのかとおもいました。日本のフォロワーはクドカンとか、あとバッカーノとかデュラララの人かな?群像劇やる人増えて欲しいねぇ。
ただ、映像のカッコよさに関しては日本人がひっくり返っても撮れない。今の明るすぎる邦画じゃ絶対に無理です。たそがれ清兵衛撮った山田洋二くらいかなぁ。(あの映画は色が少なくてよかった)
白黒に戻せばあるいは……
あとは押井守。ワントーン大好き。(でも最近のパトレイバーの実写版明るすぎるよ。アヴァロンくらい明度と彩度を落としてくれ……)
邦画はライティングがね……明るすぎるんだよね……あと清潔すぎ。(紀里谷和明は死ぬほど才能ないけど画作りだけは近いものがあるかも)
日本では画面が暗くて汚いと怒る人がいるのはなぜ。(大河の平清盛とか)
あと、彩度でいうと、あまりにも多彩でキッチュな色使いの映画(嫌われ松子の一生地獄でなぜ悪いなどなど)
は内容がよくても観るのがつらくなってくのがほんと悲しい。自分の眼の弱さを恨む。
自分は色弱気味なので常人より再度の低い世界をみているはずなのだが……むしろ色弱だからかな?
同じ監督の「告白」や「愛のむきだし」は色味がタイトでむしろ大好きなんですけどねー。

さらにプラスして、この映画の構造は個人的に革命的でした。キャラクタが何十人も出てきて、キーアイテムは銃、金、麻薬。キーアイテムが様々なキャラクタへ様々な方法で移動します。ギャンブル、売買、盗難、偶然拾うなど。好き勝手回ってた歯車が少しづつ近づいて、かみ合うタイミングが最高です。

スターウォーズで形が定まり、パルプフィクション以後なんでもありになった感がでてきた大衆映画脚本ですが、
ここまで軽く、複雑にしといて面白いのはすごい。
テンポがいいし、構図もいいし、カメラも遊んでんのかってくらい動くし。最高の映画だよ。

個人的にオチもスナッチよりいいですね。名作中の名作ですが、メインビジュアルが地味なので、扱いが悪いよね。
ジェイソン・ステイサムのデビュー作なのにね。


あとガイ・リッチーは決定的な弱点として女性を撮るのがヘタクソです。一度マドンナと結婚したあたりから察するに、
そこら辺の美的感覚がイカれているのでしょう。
本作では福本伸行作品並みに女性が出てきません。でもそれでいいのです。
この人が上手いのは、バカなチンピラがはしゃいだり酷い目にあったりするのをスタイリッシュに撮ることなのです。(日本でいうと林海象石井岳龍、あと宮藤官九郎脚本作品とか?)
えてしてホモソーシャル。VIVALAホモソーシャル。きらら系アニメも性別を変えただけで実は近かったり。

同じような特性を持つ人としてジョージ・ルーカスナタリー・ポートマンをあれだけ活かせない監督は逆にすごい。エピソードⅡの恋愛シーン、
見てらんないくらい下手でしたね。とりあえず話の流れ上、やらなきゃいけないのでやりました、というのが丸見え。
ガイ・リッチーとルーカスの差は特殊効果の使い方。キング・アーサーほんと酷かった……

あとびっくりするぐらい字幕がいいです。翻訳調チンピラ語って感じですかね。切れの良さを感じます。
岡田壮平さんってかたですが、ほかにも「レオン」「ショーシャンクの空に」もやってるみたい。一押しです。なっちも嫌いではないですが。